三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『セレンディピティ~恋人たちのニューヨーク~』

 スタバで本を読んでいたら、ちょっと気になる場面に出くわしたので、その場で女の子にラインした。

「今、ちょっと気になる場面に出くわしたので聞いてください。特にオチはないけれど、『気になる』という点では、なかなかだと思います。

 仕事終わりに寄ったスタバで、僕の隣に男性が一人、その隣に女性が一人座っていまいた。年齢は30代半ば。お互い敬語で話していて、話している内容から推察すると、今日初めて会ったようでした。

 妙齢の男女が敬語で話していると、恋の予感がします。気にはなるけれど、ちょっと見慣れた光景でもあります。男が質問して、女が笑う。上手くいけば今後付き合うことになるかもしれない、そんな光景でした。

 だから僕はすぐに興味を失い、読書に戻りました。ところがしばらくして、男が『結婚してどれくらい経つんですか?』と女性に聞いたのです。そうなると話は変わってきます。

“初めて出会った恋に発展するかもしれない男女”から、“初めて会った、夫のいる女性とシングルの男性”に変わります。

 二人はどんな関係なんだろう? そう思いました。

 しかもその直後に、男が『僕は去年子供が生まれたんです』と言ったので、もう読書どころではなくなりました。

“妻のいる男と、夫のいる女が初めてスタバで話す”という状況ってどんな場合なのだろう。

 どこまで考えても推測の域を出ないので、“たまたま席が隣になっただけの二人”と強引に結論付けました。

 が、男が『もし、今度お茶しませんか、と言ったら可能ですか?』と言ったので、もっとこんがらがってしまいました。妻がいるのに二人でお茶するのかと。

 謎は謎のまま、二人は最後にお互いの名前をいい、自己紹介をして去っていきました。

――僕とは何も関係はないし、特にオチもないけれど、“気になる”という点では、なかなか気になる話でした」

 私はスマホで一気に書き上げ、女の子に送った。てっきり「へー」とか「長い」とか返ってくると思ったら、こんな返事が来た。

「私が前に見た映画で『セレンディピティ』という映画がありました。

 偶然出会って、なんとなく惹かれ合う二人が、もしも運命ならもう一度偶然出会えるはずと、本だかお金だかに自分の連絡先を書いて、それが巡り巡って相手の元へたどり着いたら会おう、と言ってそのまま別れる……というストーリーです。

 きっと今日のスタバの二人は、男の人が既婚者だけど、たまたま隣に居合わせた女の人になんだか運命を感じて話しかけたんじゃないでしょうか? それで相手も既婚者とわかって、これ以上どうしようもないけれど、また偶然出会えるかもしれないから自己紹介だけして別れたんだと思います」

 ――もちろん、僕は思いがけず長文で届いた女の子からのメールを見て、恋に落ちた。が、6年以上ずっとお互い敬語で話す関係だから、難しいんだろうなぁ。

 

セレンディピティ~恋人たちのニューヨーク~』2001年公開