三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『へろへろくん』~恋するはな毛~

『へろへろくん』というギャグ漫画で、一度だけへろへろくんの鼻に住むはなげくんが主人公になった回がある。

 これは深夜、へろへろくんが寝静まったあと、彼の顔面で繰り広げられた話だ。

 あるところに、はなげくんというはなげの青年がいた。彼はまつげちゃんに恋をして、ある日、友人達(はなげども)の後押しを受け、まつげちゃんに告白しに行った。

 けれども、勇気を出してまつげちゃんに会いに行ったはなげくんを待っていたのは、イケメンまつげ男たちの罵声だった。

「うげー、はなげがきた!」

「きもいっ、近寄るな」

「おまえはなげのくせによくまつげちゃんに告白できるな」

「身の程をしれ」

 はなげくんは罵声を浴びせられ、まつげちゃんは困ったようにうつむくばかり。

 はなげくんが打ちのめされて、鼻の中に帰ろうとした時、 天井から大量のほこりが降ってきた。

「うわ~ほこりだ、きたねー!」

 なぜか高貴な設定のまつげ住民たちは、汚いものがとにかく嫌いなのだ。 天罰のように、まつげの住民たちに埃がかかる。 しかし、なぜかまつげちゃんにだけはかからなかった。

 目をつむって耐えていたまつげちゃんが不思議に思い、目を開けると、はなげくんがまつげちゃんに覆いかぶさり、埃を全部受け止めていた。

「はなげくんっ!」

 まつげちゃんが叫ぶと、はなげくんはにっこり笑い、けれども少しだけさみしそうにこう言った。

「おれ、はなげだから。きたねぇの、慣れてるから」

 イケメンまつげ達、そしてまつげちゃんは心を打たれ、 二人はめでたく結ばれた。

――当時小学生だった私は、この話を読んで号泣した。それはもう号泣した。

 てなことを20代になって女の子に話したら、爆笑されたことがある。 まぁ、私も誰かにこの話で泣いたことを言われたら爆笑しするだろうし、しないといけないだろう。そこで一緒になって「いい話だねぇ」と泣かれてもそんなやつ僕は信用できない。

 ただね、こうも思った。いや、正確にはこの話が引き金となって自分の中の根源的な感情を呼び起こした。

 この話を聞いて、何も感じずにただ爆笑することができる人は、さぞ幸福だろうと。

 例えば誰かが思いのたけを書いたノートを読んで、なんだ汚い、暗い、気持ち悪い、とだけ、そういう風にだけ思えたら、きっと幸福だろうと。

 そういう人間になろうと何度か努力もしたし、実際ある程度うまくいったこともある。しかし、今思い返してみると、“あくまでも自分にとって”そういう日々には思い出がないのだ。

 やっぱり思い出や糧になっているのは、あほみたいにあがいていた日々なのだった。

 黒字で書いた部分は、中村文則の小説に出てきたもののまんま引用だ。これを書きたいがために、なんか落ち込んでいる風になってしまったぞ。でも、いい話みたいにもなれたから、きっと私の評価は少し上がるはずだ。

 ただ、これが中村文則のどの小説かだけが思い出せない。中村文則の小説はすべて読んだからなー。と、さらっと読書家アピールをしてみる。

 

『へろへろくん』コミックボンボン(現在は休刊)に連載されていたギャグ漫画