三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『サラバ』~第8回 スタパで恋は生まれるのか~

 久しぶりに帰省した田舎のスタバは異常に混んでいて、行列ができている。カフェアメリカーノを頼み席を探すもどこも空いていない。

 かわいらしい店員さんが「お一人ですか?」と聞いてくる。とてもありがたい。が、物理的に席が空いていない。

 困った私が帰ろうとすると、「ここ使えるみたいですよ」とその店員さんが何とか席を見つけたようで声を変えてきた。席を見ると10歳くらいの男の子が一人で座っている。

 店員さんに、男の子大丈夫ですか? と聞くと、お母さんがテイクアウトするのを待っていたらしいので座っていいそうです、という。少年も「そうだよー、一緒に座っていいよー」と言った。

「いいことしてやったぜ顔」をしている少年と暫し話す。5分後に少年のお母さん来て「ありがとうございました」とお愛想ではない声で帰っていく。私はいいことをしてやったぜ顔になる。それをどうやら店員さんが見ていたようだ。店員さんと私は微笑みあう。

 ただ座ったはいいものの、店内は大変混んでいる。カップルやカップルになりたがっている男女でうじゃうじゃしている。

 私は2分ほどコーヒーを飲みすぐに席を立った。店員さんは「まぁ素敵、他のお客様のことを考えて颯爽と去っていくのだわ、なんて男らしい背中なの!」という気持ちをきっと込めて「ありがとうございます」と言ってくれた。他のお客さんのことを考え去る男の背中はかっこいいのだ。

 数時間後、友人にスタバでの出来事を話す。

「まぁ、すげーいいことをしたけど、あれじゃまだただの『いい人』止まりだなー。ただの良い人はモテないからなー。つぎ行ったとき『いい人』以上の何かが必要だな」

 私はいいことをした余韻に浸りながら滔々と語る。

 友人が聞いてくる。

「それで結局何分いたの?」

 私は答える。

「うーん、トータル5分くらいかな。ただそれ以上のものを残していったと思うわ。次が楽しみだぜ」

 友人はなにか哀れなものでも見るような顔で私に語りかける。

「たかし、それは『いい人』でもなんでもなく、ただの『回転率の早い客』だよ」

『サラバ』という小説で一番好きなセリフは、

――「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはけないわ」ーー。だ。

 素敵な言葉だ。だがまぁ、「ただの回転率が早い客」は信じないといけないだろう。人の言葉だけど。

 8回に渡って勝手にお送りしてきたシリーズ、「スタバで恋は生まれるのか」は一つの答えに行き着く。ようやっとわかった。

 スタバで恋は生まれない。

 8人の女の子たちに贈る言葉はこれしかないだろう。「サラバ」

 そして私はシティに移り住み、純喫茶に通い始めた。

第一部 完

 

『サラバ』西加奈子/著