三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『神様のカルテ』〜モテの罠は身近に潜む〜

 モテの罠はどこに潜んでいるかわからない。

 仕事の昼休みに、同僚と4人で昼食を摂った帰り。1人の女の子がアイスを食べたそうにしていた。

 私は彼女の分(パルム)を含めて4人分のアイスを単品で買い、事務所に残っているみんなの分のアイスを箱買いした。

 自分たちだけ食べるのではなく、みんなにも食べて欲しいという私の優しさだ。優しさプラス、感謝されて「気遣い素敵」と思われたいがための作戦だ。

 作戦は功を奏し、事務所に帰った私がアイスを箱買いしたことを伝えると皆よろこんでくれた。

 特に、一番かわいいと思っている年下の先輩の女の子の喜びようは凄まじく、「たかしさん! ありがとうございますっ!!」と今にもハグをしてきそうな雰囲気だった。

 先輩は私から袋を受け取ると急いでアイスの箱を抜き取る。

 へへん、作戦通り素敵な気遣いと思われたな。と思っていたら、そのかわいい先輩は私を見て叫んだ。

「子供かっ!」

 先輩の手には私が買った「ガリガリ君」の箱が握られていた。

 えっ? ガリガリ君は駄目なの?  私は大層驚いた。

 驚きながら私が自分用に買っておいた「スイカバー」を出すと、先輩は、

「だから子供かっ!」と畳み掛けてきた。

 知らなかった。アイスに、年齢によって食べたらやばいものがあるだなんて知らなかった。アイスの世界にもモテの罠が潜んでいるなんて‥‥‥。

ーーそれからしばらくして、近頃いい感じの女の子と出かけた。日中だけど、初めてその子の家に行くのだ。えへへ。

 家の近くだというコンビニに寄ってお菓子を買うことになり、女の子がスナック菓子を選んでいる間、アイスコーナーに向かう。反射的にスイカバーに手を伸ばしてしまう。あぶないあぶない。見られるところだった。

「そのチョイスは考えてなかった‥‥‥」

 後ろから女の子の声がした。ち、近くに来ていたのね。

 致命的なミスを犯した私は、おそらく女の子と距離を縮めるまでの期間が1ヶ月ほど伸びてしまうだろう。

神様のカルテ』という、医療小説(メインは人間ドラマ)のなかで、逃げるようにある場所を去った登場人物に対し、

「こいつは敗北ではない、門出だ!」

 と声をかけるシーンがある。とても素敵なシーンだ。

 ただ、今回のスイカバーの一件は、間違いなく私の敗北だ。

 またどこに潜んでいるかわからないモテの罠に引っかかり、これ以上女の子と距離を詰める期間が伸びない事を祈る。いやマジで。

 

神様のカルテ夏川草介/著  映画化