三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『海と毒薬』〜一度は言われてみたい名セリフ〜

 初めてのバイトで衝撃的な口説かれ方をした。

 小売店で働き始めて3日目、お客さんが私のところに来て突然こう言った。

「ち◯こしゃぶらせてくれませんか?  というか、このあと家に来ない?」

 どうやら私の身体がとにかくタイプらしかった。18歳の私は「店長に聞いてみないとわかりません」と素っ頓狂な回答をして、笑われてしまった。

 彼だか彼女だか(多分ゲイの方だとは思うのだけれど、はっきりとは本人に聞いていないからわからない。タイには“男”と“女の子”の間に16のカテゴリーがあるのだが、その中のどれかなのは間違いない)は、律儀に店長に交渉しに行き、私に気を利かせた店長に断られた。サンキュー店長。

 そのお客さんは残念そうな顔をして、「身体が良いのよー」と一緒に来ていた方に言って帰っていった。

ーー執着はすべての迷いやからなーーとは、戦時中に人体実験をした人物の内面を他者の視点で描いた小説、『海と毒薬』のセリフだ。

 私は女の子だけへの愛に“執着”していたわけではないし、単に異性愛者だから断ったのだと思うのだけれど、初対面で「下半身を弄びたい」と言ってくれる人に会うことはもうないだろう。ちょっともったいない気もする。

 それから成人を迎え、似たようなことが数回あったことも手伝って、折に触れてその日のことを思い出すようになった。

 そして何回も振り返るうちに、実はその日、私は人生で一度は言われてみたいセリフを言われていたことに気がついた。

 一般的に、女の子が男から「お前の身体だけが目的だったんだよ」と言われると、うわっ、このおとこ最悪、と思う子が多いと思うけれど、逆はどうだろうか。

 私は、「あなたの身体目的だったのよ」と言われると正直うれしい。超うれしい。

 あの日たしかに私は身体目的で迫られていた。なんという幸運だったのだろうか。でもあの瞬間はその幸運に気づかず、噛みしめることができなかった。

 ここ数年、生物学上の男性から迫られることがめっきり減った。私はあのセリフをもう一度言ってもらうべく、また五体を鍛え始めた。

 ただ、できることなら女の子から言われたい。それがとてつもなく困難なのは分かっているのだけれど。

 まぁ、なんだかんだ色々書いたけれど、要は、私は身体をそこそこ鍛えているから、「ある程度の筋肉好きよ」という女の子がいないだろうか、というだけの話なのだった。

 ちなみに、筋肉アピールをする男が嫌われるのは知っています。

 と、最後に念押しする自意識が、モテを妨げている理由なのかもしれない。

 

『海と毒薬』遠藤周作/著 1986年、映画化