三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『ニシノユキヒコの恋と冒険 その2』〜トイレの便座問題〜

 数人の男女が家に遊びに来た時のこと。

トイレに入ろうとドアを開けたら便座が上がっていた。

 やっぱりな、と思った。

 今日は私を含めて男2、女の子2人だったので先に入ったあいつだろう。

 次に入ったのが私じゃなく女の子だったらどうしてくれていたのだ。女の子はこの便座を上げた奴がおまえか私かまでは考えてくれないんだぞ。

 と、思った以上に確信したことがある。

 “トイレの便座を上げている男にはすべからず彼女がいる”。

 ホントか? と思ったあなた、ちょっとだけ待ってほしい。そりゃあ昨今の男女が付き合うと「便座を常におろしておく」方に変化する男がほとんどだ。

 だだ、なんと言えばいいか、私の経験上、トイレの便座を上げっぱなしにしてしまえる度量を持った男には彼女がいるのだ。

 それと、

 おなかが出ている男は結婚している。これも(少なくても私の周りでは)100パーセントだ。まぁ三十路というのもあるだろうけど。

 結婚して安心したからおなかが出たのか、おなかが出ても気にしないから結婚できたのか。それはこのさい問題ではない。

 問題は、常に便座を下げ、五体を鍛えている(おなかが出ていない)男は結婚できていないという事実だ。

 うまくいかないときは逆のことをすればいい、というのはセオリーだ。

 なら私は便座を上げ、おなかを出せばいいのか?  それはきっと違う。“度量”の話なのだ。

 ワイルド野郎の資質か、マイルド野郎の資質かの差なのだ。

 彼らが帰ったあと、私は仲のいい女の子に電話し一連の話をまくし立てた。

 女の子は、

「私はたかしくんみたいに便座を下げて、おなかが出てない人の方が絶対いいけどな。女子は大半そうだと思うよ」と言った。

 オーケー、サンキュー、ありがとう女の子。君は優しいし、心からそう思ってくれているのがわかるよ。ありがとう。本当に。

 でもさ、一つだけ言わせてくれ。

 君のだんな、便座上げてるしおなか出てるじゃないかっ!

 小説『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、ニシノユキヒコに恋をした10人の女性の視点で展開される物語だ。

 彼は絶対に便座は上げないだろうし、おそらくおなかも出ていない。しかも10人と恋に落ちるモテ男だ。

 ただ、案の定というべきか、やはり彼も結婚していないのだった。

 

『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美/著