三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『私の男』~絶対落ちる口説き文句~

 ぴちぴちギャルに口説かれた。しかも誰しもぐらっとくる洒落たセリフで。

 ぴちぴちギャルは会社が主催するイベントに来ていた。イベントの終わりに、会社が用意した各種チラシをじーっとみているぴちぴちギャルがいた。

 私は彼女に近づき、

「このコーナーのチラシは無料なのでどれでも好きなものをお持ち帰りください」

 と伝えた。

 ぴちぴちギャルが「うーん」と言う。

「うーん、本当にいいの?」

「いいですよ」

「じゃあ私、お兄さんをお持ち帰りしたいな」

 キュン!

 さりげなく私の心をつかんでいきやがったぜ。それからとどめの一言。

「お兄さんと結婚したいな」

 キュキュン! 結婚してもいいよ。でも君はまだ人生で夏を5回くらいしか経験していなそうだから、あと20回くらい経験してからにしよっか。その頃にはギリ「お兄さん」に見えた男は、おっさん後半戦に突入しているけどね。

 でもね、ダメなんだよ。

「ねぇ、ママいいでしょ?」とお願いしてもお兄さん(私)をお持ち帰りしたらダメなんだよ。

 だって、君のお母さん多分僕より年下だよ。三十路の私より3歳くらい下だよ。“会社が主催するイベント”って書いたけど、これただの図書館の子ども向けイベントなんだよ。

 ぴちぴちギャルはその後もしばらく「ねぇいいでしょママ?」と聞いていた。

 どうやら彼女のなかで、私こと図書館のお兄さんは“私の男”になっていたらしい。

 そして彼女のお母さんとのロマンスも起こらないらしい。ちょっと引いてるもん。

 小説『私の男』は親子ほど年の離れた男女のラブストーリー(というよりミステリー)だ。現在から過去に話がさかのぼり、最終的に三十路男と5歳児ごろになる。

 ――ぴちぴちギャルが帰ったあと、一部始終を見ていた女性同僚が、

「末恐ろしい女の子ですね」と言った。「あたしにはもうできない」と。

 小悪魔とはよく言ったもので、私は“悪魔”というのは、案外かわいらしい姿をしているのかもしれないな、とぼんやり思った。

 あと、このブログを読んでくれた人から「こいつロリコンかよ」と思われないかが今とても心配です。

 

『私の男』桜庭一樹/著 2014年映画化