三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『きよしこ』~セーラー服と竹とんぼ~

 一度だけヒーローになったことがある。

 小学校の図工の時間に私が作った竹とんぼが5メートル飛んで、私はクラス中の羨望を浴びた。皆は手から離れた瞬間に落ちるか、飛んでもせいぜい1メートルだ。

 実はその竹とんぼには、私の他にもう一人の力が加わっている。近所の高校生のおねいさんだ。金曜日の授業で作った途中の竹とんぼを土曜日に家の前の道路で削っていたら、数軒隣のおねいさんが通りかかった。

 おねいさんは私の小刀(昔の小学校は授業で小刀が使えたのだ!)をひょいと取って、竹とんぼの羽を2回だけググッと削った。

 たったそれだけで私の竹とんぼは劇的に飛び、週が明けた月曜の図工の授業で私はヒーローになったというわけだ。

 先生が「たかしくんの本当によく飛ぶね、びっくりしちゃった」と言い、私は嬉しくなった。おねいさんに伝えたいと思った。

 授業が終わりに差し掛かったころ、先生が皆に呼びかけた。

「最後にこの竹とんぼにニスを塗ります。みんな持ってきてください」

 皆が先生のもとに駆け寄るなか、私はその場に立ちすくんでしまった。直感的に、絶対にニスを塗っちゃダメだと思った。

 かるいからとぶんだ、ちょっとでも重くなったらもうとばないんだ。

 と、小2の私がしっかり言語化できていたかは不明だが、そのようなことを感じたのは覚えている。しかしどうしても言い出せず、私の竹とんぼにはニスが塗られた。

 先生が乾いたあとの竹とんぼを皆に渡し、皆は嬉々として受け取ったけれど、私にはわかっていた。もう飛ばない。ぴかぴか光っていてももう飛ばない。

 実際、飛ばした竹とんぼは手を放した瞬間に地面に落ちた。私は、おねいさんを裏切ってしまったような気持ちになり、学校の帰りに竹とんぼを折って捨てた。

 小説『きよしこ』の主人公きよしも小学校低学年だった。彼には“どもり”があり、恥ずかしくって思っていることが言えなかった。でも、頭の中には言葉があふれていた。とても利発な少年だった。

 言語化できずに想いを伝えられないのと、言語化できるのにからかわれるのが怖くって想いを伝えられないこと。

 そのどちらが大変かはさておき、高校生のおねいさんがどうしてあんなに小刀の使い方が上手かったのかは未だもって不明である。

 

きよしこ重松清/著