三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『短歌ください』~四葉のクローバーの有効期限~

 数年前に友人との待ち合わせでスタバに行ったときのこと。先に到着していた男友達の席にコーヒーを持って行くと、テーブルに歌集『短歌ください』がこれ見よがしに置いてあった。

 どうやら「俺、短歌なんか読んじゃうんだぜ」とその意識の高さを周りの女の子にアピールたいようだ。私は男に忠告する。

「お前に言っとくけど、俺『若きウェルテルの悩み』とか『ファウスト』とかで同じことやったことあるけど、まじで何も起きなかったよ」

 男は少し笑ったあと、「まぁ読んでみろよ」的な顔でその本を渡してきた。

 数ページ読んで思う。これ、激烈面白い!

 結局、同じ本を購入した私は1日で読み切り、これまで発行された3冊をハードカバーで買った。

 そして現在である。ある女の子が私の部屋に来ていた。しかも、私に割と好感を持ってくれている(気がする)女の子だ。

 ここでおみだら決めてやるぜ! 私は決心する。

 女の子が私の200冊に厳選されたセンス溢るる本棚を見た。『短歌ください』を発見し、「この人、短歌の本持ってるの? 素敵だわ」という顔を間違いなくした。さっきまで飲んでいたお酒で顔もとろんとしている。これはもう行けるといっていいでしょう。

 実際に本を手に取った彼女がページを開いてゆく。急にその手が止まり、あるページから長いこと動かない。「なになに?」とへらへらしながら彼女の後ろから手元を見た私は言葉を失う。

 彼女の開いたページに、熟成期間2年程の押し花が挟まれていた。しかも四葉のクローバー。明らかに仲の良かった男女がキャッキャウフフしながら挟んだと思われるものだ。というか、挟んだこと(と女の子)を覚えている。なぜ今まで忘れていたのだ。

 彼女の後ろに立っている私からその表情は見えないが、どう肯定的に見ても嬉しそうではない。

 完成した押し花ということは、もはや過去の思い出なわけなのだが、この“思い出”がやっかいなのだ。恋愛に発展しそうな初期段階においては特に。

 彼女はそれから何事もなかったように本を閉じ、何事もなかったように笑顔でたわいのない話をしたあと、私となにごともせずに帰って行った。おみだら、果てしなく遠いなぁ。

 もし俺が 宇宙人でも とりあえず いい人止まりで おわるのだろうな(本文の作品より)

 

『短歌ください』穂村弘/著