三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『映画編』~好意のバロメーターを計る方法~

 女の子との初めての食事は苦手だ。相手の緊張が伝わってくる場合があるからだ。それは噛み切れず呑み込めないイカの異常な咀嚼回数だったり、パスタをすすらずリスみたいにチマチマかじったりする所作に表れる。

 これらを見るのがとにかく苦手で、女の子に気持ちよく食べてほしい私は、たいてい初めてのご飯の場所を自分で決める。

 先日、男女数名で初めてのご飯に出かけた。その街に不案内だった私は2人いた女の子の1人の行きつけだというこじゃれたカフェに連れて行ってもらった。

 合コンよりもデートに近い初めての食事で何をどうやって食べるのかは、私のなかで一種の“好意のバロメーター”的な役割を担っている。こちらを意識して可愛く食べるか、もりもり食べるかだ。あくまで傾向としてだけど。

 1人の女の子はにんにくたっぷりのペペロンチーノをずるずる食べた。なるほど、この子は私を友達として見ている確率が高い。

 もう1人の、この店の行きつけだという女の子はどでかいハンバーガーを注文した。なるほど、この子も私を友達として認識している確率が高いな。哀しい。

だが、どういうわけか、彼女はそれをリスみたくちまちま食べ出したのだ。私は混乱した。

 食べ方としては2種類ある。大口開けてがぶっと食べるか、彼女みたくちまちまたべるかだ。

 初めて行った店で注文したハンバーガーが思いのほか大きかったのならまだギリわかる(それでもハンバーガーを頼んでいる時点でがぶっといかないと難しいことは想像できそうだが)、しかしこの店は彼女の行きつけだという。可愛く食べたいのならほかにそれに適した食べ物を知ってたろうに。

 私は彼女の、“食欲と羞恥心の間”の機微が理解できず激しく混乱し、自分が食べていたカレーの味が全く分からなかった。この子は私を異性として見ているのか、それとも単なる友達なのか……。

 ――さっきまで、別の女の子と食事をしていたときにそのことを思い出した。

 ここまで色々書いてみたが、つまり、まぁ何が言いたいかというとだ、さっきまで目の前でもりもりご飯を食べていた女の子は、きっと私に興味がないということだ。

 でも、ま、小説『映画編』のなかに――知った気になった瞬間に停滞が始まる――という言葉があるし、初めての食事でどんな食べ方をするかで好意を計るという私の経験則なんてのは、あくまで傾向をつかめる程度なんだろうな。

 その子が私のあらい鼻息に気づき、あわてて彼氏の話を始めてもさ。

 

『映画編』金城一紀/著(姉妹書? に『対話編』もあります)