三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子と出会うことについて』と『人間失格』

 四月のある晴れた朝、勤め先の事務所で女の子に「たかしさんはどんなセックスをするんですか」と唐突に聞かれた。

 大して綺麗な女の子ではない。素敵な服を着ているわけでもない。というかほとんど話したこともない。彼女が入って4か月は経っていたのに挨拶以上はなかった気がする。

 それはもう何年も前のことだし、顔も忘れてしまった。私が今思い出せるのは、彼女が私のセックスをとても気にしていたということと、言われた瞬間に絶句してしまい上手く答えられなかったことだけだ。

 正確には、彼女の質問の入りが「たかしさんホテルに泊まったりするんですか?」で、そのあとすぐに「どんなセックスするのかなと思って」と言われた。

 あれからかなり時間が経って、「いや、僕は基本的に野外なので」という渾身の小ボケを思いついたが、どうもしっくりこない。

人間失格』で主人公とその友達が、単語のシノニム(類義語)とアントニム(対義語)を言い合うくだりがあるのだが(「晴れ」のアントニムは「雨」とかね)、彼らは「罪」のアントニム(対義語)を遂に見つけ出せなかった。

 脱線を終えて話戻る。私は罪のアントニムと同じくらい、あの時の彼女の質問の答えを見つけ出せないでいた。

 今日でたぶん4年3か月悩んでいる。

 今日は性癖がやばいという友達と話していた。どんなやばい性癖か分からず見当違いの質問をした私に彼はこう答えた。

「いや、そっちの性癖じゃないんだよ。セックスはさわやかなんだ」

 その瞬間、私は自分がついに答えにたどり着いたことを知った。4年と3か月前に、あそこまで私のセックスを知りたがった彼女になんと答えてあげるべきだったのかを。

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 四月のある晴れた朝、8時37分の事務所。職員は3人しかまだ来ていない。

 私のデスクの斜め前には上司、私の前には(おそらく私のセックスが心底気になってしょうがない)女の子。

 ほとんど話したことのない女の子が友達のような軽やかさで唐突にこう聞いてくる。

「たかしさんはどんなセックスをするんですか」

 私はにこやかにほほ笑んでこう答える。

「僕はとてもさわやかなセックスをしますよ」

――彼女に質問された時、私はこう答えてあげるべきだったのだ。

 

人間失格太宰治/著 『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて村上春樹/著(短編集『カンガルー日和』に収録されている一篇)

↓その日の話。

shikataeunita.hatenablog.com