三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『女たちは二度遊ぶ』~時差ボケの女~

 真夜中に女の子から電話がかかってきた。

 眠かったし、夜中の電話でいい内容だった試しはないから迷ったのだけれど、吉田修一の『女たちは二度遊ぶ』を読んだ直後でもんもんしてたので、電話を取った。

「もしもし」と女の子。そこから10分ばかし、女の子が近況報告をしてくる。私は、あーとかうーとか適当に言いながら、彼女が今朝起きてから仕事に行くまでのどーでもいい詳細を知ることになった。

 別の女の子から電話がきたら、うひょーとうれしくなるものなのだが、まったく乗り気になれない。

 なぜなら彼女は驚くほど私に興味がないからだ。興味がないくせに、その恐ろしいほどの美貌で(私は美女にめっぽう弱い。普通の女の子にもきっちり弱い、というか女の子には全員弱い)私を虜にし、暇をみつけては電話をしてくるのだ。

 ただ、さすがにもう電話取るのめんどくさい。これっきりにしよう、そう思った。

 いつの間にか、彼女の1日の出来事は仕事のお昼休みに移っていた。

「それでね、一人でお昼ご飯を食べたかったのに男の子がやってきたのよ。あたし一人でご飯を食べたいのにさ。ちゃんと断ったけど」

 あ、と思う。

「そういえばさっき読み終わった『女たちは二度遊ぶ』の短編のなかに、そんな話あったよ。一人で昼ご飯を食べる人は、他にやりたいことがあるんだって」

 へぇ、と女の子。「じゃああたしはたかしくんに電話したいから一人でご飯食べてるのかもね」

 いや、そういうやりたいことではないんだけどな、と思いつつ、私はまた彼女の虜になる。

 彼女の住むアメリカは今お昼。日本は真夜中。向こうは太陽の中シラフでそう言っても、夜中に聞く小悪魔発言はぐっときてしまうのだ。彼女と私のテンションには時差がありすぎる。

『女たちは二度遊ぶ』の各短編は、それぞれ『○○の女』という、○○にその物語に出てくる女を象徴した言葉が入っている。『どしゃぶりの女』とか、こんな具合に。

 私は彼女と電話をしながら、さしずめこの子は『時差ボケの女』だな、と思った。

 

『ゴシップ雑誌の女』~『女たちは二度遊ぶ』のなかの短編~ 吉田修一/著 ドラマ化もされております。