三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『レ・ミゼラブル』~図書館の神様~

レ・ミゼラブル』という物語のなかに、とても不幸な母娘が登場する。

 母親であるファンティーヌは、公園の椅子に座っていた水知らずの優しそうなおかみさんに娘コゼットを預け出稼ぎに出掛けた。

 コゼットの洋服代や薬代をおかみさんに再三請求され、ファンティーヌはブロンドの髪を切ったり、前歯を折って売ったりしてお金を送り続けた。しかし無理がたたって病にかかり、コゼットに会えぬまま死んでしまった。

 一方のコゼットは、裕福な生活どころか虐待にあっていた。おかみさんはファンティーヌから貰ったお金を自分の為だけに使い、コゼットには一銭も与えなかった。彼女は9歳になるまでその生活を続けた。

 作者は作中でこう語っている。

 もしあの時、ファンティーヌが椅子に座ったおかみさんと初めて出会ったあのとき、おかみさんがもし立ち上がっていたら、そのあまりの威圧感にコゼットを預けることは決してなかっただろう。

 たったそれだけーーある女が椅子に座っていたか立っていたかーーそれだけのことが母娘の人生をこんなにも変えてしまったのだ。

 思うに、多分ほんの些細な出来事がその人の人生を左右する。

 そして私は、ものすごい人生の帰路に立たされていた。

 公共図書館で働くか、国立大学図書館で働くのか。だ。

 どっちを選んでも人生が大きく変わる、そしてそれを、2時間のうちに決めないといけない。

 うひゃー迷う~~。

 でも、そういうときに限って、まるでなにかのお告げのような、暗示的な出来事がおこったりするものだ。

 私が国立大学の面接を受けたときに、履歴書を渡すと、貼ったはずの写真が剥がれた。
あれ? 昨日糊付けしたはずだよな、と糊をカバンからだすと、出てきたのはリップだった。 僕は糊と間違えてリップを塗っていたのだ。

 そんなことが起こるだろうか。そして多分これは何かを示唆してるんだな、と思った。本当に働きたい職場ならこんなミスはしないだろうと。

 というのが、かなり強引な理屈だとは分かってた。

 ただまあ、そうゆうわけで、僕は公共図書館で働くことに決めた。

 履歴書の写真に糊を塗ったかリップを塗ったか。それが僕の人生を大きく分けることになった。 
 結果として、僕は図書館でボロボロになって5年で辞めた。

 思い出すのもつらい日々のなかで不思議と一度も、“あのとき国立大学にしていれば”と思ったことはない。多分、死ぬほど頑張ったからだろう。

 ただなぁ、一つだけ思うんだよ。もし大学で働いてたら、女子大生を見放題だっただろうってね。

 

レ・ミゼラブル』ヴィクトール・ユゴー/著