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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

超絶かっこいい振り方~『さくら』~

 愛人に間違われることがある。男友達の彼女に「第二夫人」とよく言われる。

 もちろん本気で思っているわけではなく、それだけ仲がいいもんねというギャグなんだろうけど、そこに割と強い嫉妬心が含まれているのがちょっとこわい。

 喫茶店で女の子と話していたら、嫉妬の話になったのでこのことを話した。女の子は冗談に本気をいくらか混ぜた声で、

「でもたかしくんさ、今野くんにめっちゃ愛されてるよね」

 と言ってきた。確かに仲はいいし、何故か遊んだ最後にハグを求められるけど(3回とも断っている)、職場の後輩だし今野くんには彼女がいる。

「う~ん、でもその彼女とも2か月に1回しか会っていないわけだよね。車で数十分の距離にいるのに」と女の子。

「そうみたいね」と私。

 もしさ、と今度はかなり本気度の強い声で女の子が聞いてくる。

「もし今野くんに『好き』って言われたらどうする」

 私はしばらく考え、こう答えた。

「今野くんとは付き合えない」

「今野くんとは? 男とはじゃなくて?」

「うん、性別については言わないと思う。『今野くんとは』って伝える」

 なにそれ意味わかんない。と女の子は変な顔をする。

 女の子が、今野くん今野くんばかり言うものだから、これから女の子とおみだらな関係になりたいのに今野くんの顔が浮かびそうでなえちゃうじゃないか。

 デートの帰り道、女の子と結局おみだらな関係になれなかったことの言い訳に今野くんを使ってみる。

 あれから半年。女の子から久しぶりに電話があった。

「前にさ、今野くんに『好き』って言われたらって話したじゃない?」

「うん」

「そしたら、たかしくん『今野くんとは付き合えない、って言う』っていったのよね。あのときは意味が分からなかったけど、今ならわかる……」

 性別に触れず、あくまで個人を判断する――女の子はそれにいたく感動したらしい。半年たって、なにやら私の評価は上がったようだ。

 ただ、私が言ったそのセリフ、まんま小説のパクリなんだよな。小説『さくら』に出てたんだよ、なんかかっこいいから言っただけでさ。ということは、墓場まで持って行こう。そのほうがモテそうだし。

 ちなみに今野くんは結婚して子供がいる。この間ひさびさにあったとき、やっぱりハグを求めてきた。私はモテそうになるきっかけを与えてくれてありがとうという意味で、ハグを受け入れた。

 

『さくら』西加奈子/著