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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『涼宮ハルヒの憂鬱』~アニメ乳~

 ライトノベルに親友を奪われてからひと月が経っていた。

 UKロックとコーヒーとをこよなく愛し、飲み会を至高の喜びとしていたSが、アニメ表紙の小説をすすめてきたのがそもそもの始まりだ。

 私ともう一人の友人Mは、アニメの絵の表紙を見て正直戸惑った。ところどころに入っているロリ巨乳の女の子の絵を見て「アニメ乳やないかい」と思った。Sが力説すればするほど、私たちはSと距離を感じた。本は好きだが、萌え? はちょっと嫌だった。

 Mと二人っきりになったとき、Mはしきりに「ないわー、あれはないわー」と言った。人を絶対に否定しないMがそう言ったというのは、よっぽどのことだったのだろう。私は激しく同意する。

 その10日後、なぜかMはSとキャッキャウフフしていた。「『涼宮ハルヒの憂鬱』ほんと面白いよね」と語り合っていた。

 10日前の「あれはないわー」はなんだったのか。私のもとに駆け寄ってきて「たかしくんも絶対見た方がいいよ」とおすすめしてくる始末。あぁМよ。お前も魂を売ってしまったのか。それから、なんとなく2人とは距離ができた。

 ライトノベルに親友たちを奪われてからひと月が経っていた。タリーズが併設されているビルに行った私は、コーヒーの前に書籍コーナーに立ち寄り読みたい小説を吟味する。

 左ななめ後ろから、誰かの視線を感じた。振り返るとSとMが立っている。私は思わず逃げ出す。Sが「待てコラ、逃げんな!」とマンガのようなセリフで追いかけてくる。

 Sに掴まれた私の左手には、『涼宮ハルヒの憂鬱』の3巻が握られていた。

 ライトノベルは親友たちの心を奪ったのちに、こっそり私の心をも奪っていたのだ。1,2巻では飽き足らず、私は3巻を買いに来ていたのだった。

 つまり、まぁ、なんというか、『涼宮ハルヒの憂鬱』は激烈面白かったのだ。

 結局、元来飽きっぽいSとMは2巻までしか読まなかったが、私は8巻まで読んだのだった。

涼宮ハルヒの憂鬱』は、五十音順に並べられた私の本棚の中で、太宰治谷川俊太郎の間に挟まれながら、アニメ乳を私に見せびらかす。

 

涼宮ハルヒの憂鬱谷川流/著