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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『花が咲く頃いた君と』〜女子に嫌われるタブー〜

 めずらしく女の子に誘われて食事に出掛けていた。女の子はとても楽しそうだ。まだ付き合ってはいない。しかし私は長年の経験から、このあと部屋にお呼ばれすることになると確信していた。そんなときこそ注意が必要だ。どこにタブーがあるかわからないのだから。

 タバコのポイ捨てをしない、店員に横柄な態度を取らないという、よくヤホーの記事にある「女の子に嫌われるタブー」的な、読むまでもない“あたりまえのこと”ではない。もっとごくごく個人的なタブーだ。

 たとえば昔、後輩である女の子のアパート(1K)に皆で遊びに行った時のこと。座る場所がなかった私は何気なくベットに腰掛けた。それが後輩のタブーだった。彼女にとって、布団は清い体(シャワーを浴びてパジャマに着替えた後)でしか触れてはいけないものだった。それがたとえ彼女自身であっても。

 あるいはこれまた昔、話の途中でたまたま店内に女の子の好きなBGMが流れていたときのこと。女の子が「あっ、これ好き」みたいな顔をしたのでちゃんと10秒待って「それでさ、」と話かけたら「ちゃんと聴かせて」と1曲まるまる聴かされたことがある。10秒の気遣いは彼女にとってさして意味のないものだったようだ。

 恐ろしすぎるぜ、個人的なタブー。私は妄想を巡らす。

 ーー「ところでたかしくんのそのメガネって度は入ってるの?」

 目の前の女の子が聞いてきた。考え事をしていたせいで何を話していたか覚えていないが、なにやらヤバイ感じがする。

実はその女の子がメガネ好きと聞いてメガネをかけてきていた。だがオシャレメガネを持っていない私は寝る前にかけている普通の度が入ったメガネだ。どうする?  お呼ばれがかかっている。ここはもう賭けだ。

「うん、視力悪いから度が入ってるよ」

 女の子の顔が輝く。

「よかった。わたしただのファッションメガネかけてる人ってどうしても苦手なんだ」

 あっぶな。これが彼女のタブーだったのか。ピンチを切り抜けチャンスがくる。

「ごちそうさま。ごはん美味しかったね。えっと、たかしくんこのあと予定ある?」

 お呼ばれがくる。いつの間にかそんなに時間が経っていたのか。私は彼女のドリアに視線を落とす。ドリアが半分以上残っている。

 あっダメだ、これ俺のタブーだ。そう、私はさも当然のようにご飯を残す人がダメなのだ。「ごめん残しちゃった」というたった一言さえあればいいのだけれど。

 私はよこしまな考えを無理やり押さえ付け、絞り出すように「ごめん」と言った。ああ、お呼ばれが。

タブーはどこに潜んでいるかわからない。そういう意味では小説『花が咲く頃いた君と』はタブーでいっぱいだ。気まずいことが言い合える仲でも、本当のタブーは中々言えないものだけど、そこをこそ突いてくる。痺れる毒なのにきちんと甘い。そしてとにかく題名が素敵。さようならお呼ばれ。

 

『花が咲く頃いた君と』豊島ミホ/著

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