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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『東京タワー』~東京という名の小宇宙(コスモ)~

「そういえばこの間○○くん東京にきたよ」

 上京して8年になるMが電話口で言ってきた。東京には2度だけ行ったことがあるが、どうしても叶えられなかった夢がある。それは「東京タワー」を見ることだ。

「東京タワー」を題材にした小説は腐るほどある。今は2つしか思い浮かばないがとにかく山程ある。私は本に東京タワーが登場するたびに一人夢想していた。どうしてもスカイツリーを見る前に東京タワーが見たい。

 何年も前から私の夢を知っているMが言う。

「いや、でも東京に来たらスカイツリーを見ない方が難しいよ」

「それはわかる。でも、過去に2度東京に行ったときなぜか東京タワーを見れなかったから、スカイツリーを避けることだって不可能じゃないはずでしょ」

「……残念だけど、東京に来てスカイツリーより先に東京タワーを見るのは不可能だよ」

 そうなのか? 私の夢は潰えてしまうのか。

 と、Mの電話口からかすかに女の子の声がした。Mが一緒に暮らしている女の子が一部始終を聞いていてアドバイスをくれたようだ。Mが代弁する。

スカイツリーを見なくてすむ方法が1つだけあるよ。それはスカイツリーに登ってしまうことだ」

 ――愕然とした。恐ろしい街だぜ東京。見たくないものから遠ざかるには、逆にそれ自体に触れていなければならないなんて。

 私は「とてもいいことを言ったぞ」的な声で今のセリフを言ったが、Mはそれには触れてこなかった。やはり東京という名の小宇宙(コスモ)は恐ろしい。

 リリー・フランキーの小説『東京タワー』に出てくる「リリー少年がオトンに放り投げられるシーン」みたく、東京という街から放り投げられた気がした。

 普段は教訓めいたものを絶対に書かないようにしている私だが、今回ばかりは違う。

 この話の教訓はこうだ。「~という名の小宇宙(コスモ)」と書けば、全ての物事はダサくなる。

 

『東京タワー』江國香織/著 2005年 映画化

『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン』リリー・フランキー/著 2007年 映画化


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