三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『貫かれた単純』〜15歳の煩悩〜

※下衆回です

「お前に俺の壁になってほしい」

 高校1年生の昼休み、唐突に水本くんに言われた。今まさに机でお弁当を広げようとしていた私の手が止まる。なんだって? 私を“乗り越えるべき大きな壁”と見立てているのか?

「いや、お前の真反対の席に座ってる◯◯ちゃんのパンツが見えそうなんだよ。頼む、身を隠させてくれ」

 そうか、この人バカなんだ。私は思った。姉が2人いる私にそんなよこしまな感情はない。しばらく考えたが、私は女の子のハレンチ阻止より不毛な友情を取った。水本くんは私の机の横にしゃがみ、◯◯さんの方をじっと見つめる。雪原で雪を食べて息の白さを隠す狩人のようにじっと待つ。瞬きすら惜しい様子だ。怖い、この人本当に怖い。

 私がお弁当を食べ終えても水本くんは動かない。どうやら弁当を食べない気だ。昼休みは45分。もう30分もじっとしている。

 この人バカだ、という認識が時間と共に変化していく。水本くんを眺めながら、私はあるマンガに出てきたヤクザの台詞を思い出していた。

 ーー簡単をやるのはカンタン。たけど、単純を貫くには度胸とガマンがいるーー

 たしかに、容易いことをするのはカンタンだ。でも、単純(シンプル)を貫き通すためには努力と忍耐がいる。そう、水本くんはただ単純にパンツが見たいのだ。だからもう昼休みも終わるというのに微動だにしないのだ。「カンタン」ではない、彼は「単純」を貫いている。

 なんとか成功してほしい。願いはいつしか祈りに変わった。だが無情にもおわりを告げるチャイムが響く。終わったーー。

「よっしゃ!やったぜ。たかしありがとう」

 水本くんが立ち上がって叫んだ。どうやらチャイムが鳴り止む直前に彼の目的が奇跡的に達成されたらしい。水本くんの貫いた単純が身を結んだ瞬間だった。

「おめでとう」

「おう、本当にありがとな。お前のおかげだよ」

人生でトップクラスに心のこもった、それでいて最も下衆いやりとりだった。私は女の子のハレンチに感謝し、心の中で深く詫びた。

 私にはどうしてもわからなかった。水本くんがどうしてあそこまでパンツに執着心を燃やしたのか。姉が2人がいる私によこしまな気持ちはない。繰り返す、私によこしまな気持ちはない。

 

マンガ『臨床心理士 聖徳太一』第3巻「貫かれた単純」より

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