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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『キャベツ炒めに捧ぐ』~でも作るのは卵焼き~

読書男子 モテる 料理

 男という生き物はムダに凝った料理を作りたがる。ミートソースでいいのにペペロンチーノにし、水炊きでいいのにもつ鍋にしたがる。あとチーズを多用したがる。もちろん全て私だ。女の子にはかっこつけたい。だが、こと一人分となると作るものが全然違う。庶民的な――けれども安くておいしい――ものにシフトする。そしてその庶民的な料理の中で半人前として認められるラインが「卵焼きを上手に作れるかどうか」だと思う。

 卵焼きは、一見簡単そうだが実はとても難しい。初心者はスカスカになりやすいし、味もよくない。殆んどの人のお弁当に入っているから、職場に弁当を作って行くと女の子が覗いてくる。だから多分卵焼きが上手い男はモテる(気がする)。

 私は試行錯誤を繰り返した。はじめにフライパンをよく温めたし、ちゃんと濡れた布巾の上にも置いた。油引きもマメにし、冷めてもおいしくなるといわれるマヨネーズも入れた。だが上手くならない。きちんと料理をする人と比べると全然違う。

 ハム、ネギ、にら、そしてツナと、色々混ぜることで誤魔化したりもしたが、やはりシンプルにおいしい卵焼きが作りたい。

 何十何百と繰り返すうち、いつのまにかモテたいという気持ちがなくなり、真摯に料理と向き合うようになっていた。邪心を捨て、一つ一つの動作を「作業」としてではなく、まごころを込めて丁寧にした。

 すると、なんということだろうか。卵焼きが劇的にうまくならない。邪心を捨てても難しいものは難しい。

 もしかしたら、凝った料理は実は女の子と付き合ったあとはそこまで求められていないこと――「金かければおいしくできるに決まってんじゃん。あたしだってできるし。こちとら“安くておいしい”を普段は求めてんだよ。凝ったの作って威張ってんじゃねぇ。食費考がえろ」と女の子が思うことを知っていて、あえて庶民的な料理を勉強した私の深層心理を見抜かれたのかもしれない。

 卵焼きが私に応えなかったのではない、私が卵焼きを愚弄したのだ。

『キャベツ炒めに捧ぐ』に出るお惣菜屋の還暦女性たちみたく、本当においしい家庭料理を作るには、やはりまごころが大切なのだろう。

 そしていくらまごころを込めても、練習しなきゃ上手くならないのな。世の中のお母さん(お父さん)方、いつもお疲れ様です。なぜだか上手く作れんのです。中身がスカスカになるのです。私は料理男子です。

 

『キャベツ炒めに捧ぐ』井上荒野/著


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