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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『猫道楽』~おいしい葉巻を吸いに行こう~

読書男子 同性愛 葉巻

 夜中に物音で目を覚ました。部屋の中に“何か”がいる。私は3か月前に同じ部屋で幽霊を見たばかりだった。やっとまたこの部屋で眠れるようになったというのに。

 前回と違うところは金縛りにあっていないことだ。奇妙な出来事が起こり過ぎて少し感覚が麻痺していたのかもしれない。私はそのまま眠ることにした。だがやはり“何か”がいる。動物も飼っていないし窓も閉めきっている。もし何かいるのなら、それは玄関から入って2階の私の部屋に来たことになる。家族は大丈夫だろうか。幽霊ではなく“物理的”に何かがいる感覚がある。寝たふりが一番安全だろう、ときつく目を閉じると誰かに殴られた。私は危険を察知し目を開ける。

 猫だった。ニャーと鳴く。ニャーじゃねぇし、と私は思った。ニャーニャー言い始めた猫は外に出たがっている。鍵を開けて外に出してあげた。多分、昼間に野良猫が窓から入りどこかで身をひそめていたら外に出るタイミングを失ってしまったのだろう。逆に夜までよく鳴かなかったよ。私は一服して眠りにつく。

 次の日の昼、目を覚ますと同時に部屋に来た母が言った。

「なんかあんたの部屋臭わない?」

 ――しまった、バレた。私は2日前から「ロメオYジュリエッタ」という葉巻を吸い始めていた。17歳でタバコは駄目だが、葉巻はもっと駄目だ。夜中に吸ったのがばれてしまったのだ。優等生の私は正直に白状した。高校生の息子が隠れて葉巻を吸っていたという事実に母は愕然としたようだが、それ以上に釈然としない様子だった。

「いや、タバコの臭いじゃないのよね」

 たしかにタバコ(葉巻)の匂いとはちょっと違うような気がする。もっとこう、なにか“温かみ”のある臭いだ。母と共に臭いのもとを探す。押入れの布団に、がっつり猫のおしっこがかかっていた。

 あの野郎、俺の葉巻をばらしただけでなく置土産まで残していきやがったのか。昨日の昼間から鳴くのを我慢していた猫は、おしっこだけは我慢できなかったようだ。

「よかったミーちゃん帰ってきたのね」

 隣の家から声がした。

 どうやら昨日の昼から行方不明だった家猫が戻ってきたらしい。そうか、あの猫はミーちゃんというのか。とんだ猫道楽に巻き込まれたものだ。

 小説『猫道楽』は、猫は猫でも、にゃー達じゃなくて、「同性愛の受け身の男性」という意味のネコのこと。一応にゃー達もちろっと出てきます。猫飼亭に住む姿の良い4人の男たちと、彼らに引(魅)かれた男たちを描いたお話。婉曲な表現や比喩や暗喩を多用するので、直接的ではない妖しい雰囲気(耽美さ)が出ていました。美しさ至上主義万歳。

 ちなみに、母に喫煙がバレた私は葉巻(タバコ)デビューのタイミングを逃し、結局2本で辞めた。

 

『猫道楽』長野まゆみ/著


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