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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『残穢』〜だいぶポップな怖い話〜

読書男子 映画 ホラー 幽霊

「部屋にある合わせ鏡を絶対に開けて寝てはだめよ」

 亡くなった祖母に言われて以来17年間、私はそのいいつけを守っていた。たった1日だけそれを忘れた。

 模様替えの最中だった私は、ベッドと壁の間を30センチほど開けて眠った。翌日そこに小棚を置くつもりで。その夜のことだ。

 カサッカサッという、絹擦れの音で目を覚ました。ただ、目を開けてはいけないという本能的な恐怖から目は開けなかった。自分の髪の毛のあたりを何かが行き来している。ベッドと壁との30センチの隙間に“何か”がいる。生まれて初めて金縛りにあった私は身動きができない。

 不意に、顔面の毛が逆立つ。指を眉間の下にギリギリまで近づけると少しぞわっとすると思う。人にやってもらうのが効果的だ。あれを万倍嫌な感じにしたものだった。“何か”が顔を近づけてこちらを見ている。私は瞼を開けた。

 異常なほど目の細い女性が目の前で笑っていた。そのあとのことは覚えていない。

 数日後、私は居間でテレビを観ていた。未解決事件を追った番組のコーナーで、30年前の犯人の似顔絵が映し出された。異常なほど目の細い女性の絵だった。あの夜の女の人だった。その日から2年程、私は奇妙な一連の体験をすることとなる。

 10年後、私は27歳になっていた。奇妙な出来事も随分前に落ち着き、久しぶりの実家で姉と談笑していた。実は姉もおばけを見たことがある。ベッドに腰掛けうたた寝をしていたら突然金縛りにあった。薄く目を開けたら部屋の前に女の人の足があった、という。そのことは知っていたが、話の続きと私に言わないといけないことがあるという。

「今だから言うけど、あたしが女の人の足を見た日ってあんたが目の細い女の人を見た日と同じだったんだよね。それでさ、あたしが見た女の人の足がそのままあんたの部屋に向かっていったんだ」

 幽霊を信じているわけではない。金縛りも幻覚もよく聞くことだ。単体で考えれば気のせいの部類だろう。しかし、同じ日に2人の人間が隣り合った部屋で金縛りにあい、1人が部屋の前で見た女性の幽霊がもう1人の部屋に歩いていくのを目撃し、もう1人も部屋で女性の幽霊を見るという偶然はあるのだろうか。17歳のあの日から2年間、私と周囲(家族や友人)に降りかかった奇妙な出来事も偶然なのだろうか。

 小説『残穢』を読んでそのことを思い出した。『残穢(ざんえ)』は日本的なじわじわくる怖さだが、読んでいる最中の正直な感想は「ほんのちょっと怖いけどとても面白い」だ。なんせ主人公に奇妙な出来事は起こらないのだから。ただ、読み終わったあと私はその本をすぐに手放したくなった。小説の選考委員たちも、この本は家に置いておきたくないと口々に言ったと聞く。

 山を切り開いた住宅地に1番初めに住み始めた人以外の全ての人々――1度でも誰かが住んだアパートや平地に家を建てたり住んでいる人――は注意して読んでほしい。

 余談だが、実はあの日地味に父も金縛りにあっていたらしいが、多分それは偶然だろう。映画化もあるよー。

 

残穢小野不由美/著 2016年 映画化


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