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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『マチネの終わりに』(第4回 スタバで恋は生まれるのか)

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 遅番で会社に着いて早々、上司から声をかけられた。

「そういえば朝イチで女の子からお前に電話あったぞ」

「誰ですか」

「いや、それがジム『ビートル』の関係者っぽいんだけど、お前の名前は知らなかったんだよ。ただ、『身長が174センチくらいでスラッとしていてたまにメガネかけてて筋肉を鍛えていてスタバで本をよく読んでいるディカフェを飲む若い男の人っていますか』って聞かれたもんだから……」

「それ私ですね」

 実は前日の夜、スタバで『ビートル』のトレーナー(女の子)から声をかけられていたのだ。しかも今日出勤かどうかをとても気にしていた。

「それ私です。そして恋ですね」私は答えた。2時間後、女性から電話がかかってくる。

「お電話ありがとうございます。○○図書館たかしでございます」

「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが、そちらに身長が174センチくらいでスラッとしていてたまにメガネかけてて少し前まで筋肉を鍛えていた……」

「それ私ですね」

 もうかぶせた。本当にスタバで話した女の子から電話が掛かってきたんだもの。女の子は続けた。

「私のこと覚えていますか? 前に一度ジムでお話したことがあるんですけど」

 はて、……。仮にも接客業。言葉のニュアンスには敏感だ。昨日話した女の子が「前に一度ジムで」などとは言わない。つまりこの女性は昨日のスタバの女の子ではない、と理解した。女性はなおも続ける。

「実は前にジムでお話ししたときテニスをしていたとおっしゃってたので、この間全米オープンに行ったときに買ったボールのお土産を渡したいなと思って」

 思い当たる女性はいた。ただただストイックに身体をマッスルしていた私に、ストレッチ中に話しかけてくれた人だ。ジムには2年通ったがトレーナー以外で話した唯一の人だから覚えている。確か10分くらい話した。でもそれだけだ。そして最後にジムに行ったのは2年前だ。「前に一度ジムで」の“前に”の幅が広すぎる。

 私は図書館で働いていることを公言しないようにしている。故にこの女性にも話していない。言ったことがあるとしたら、昨日スタバで話しかけてきたジムトレーナーの女の子だ。そして電話の女性はその女の子の知り合いだという。

 あいつ、ハメやがったな。「なにやら恋らしきものをしたかもしれない友達を応援する自分」にのぼせて個人情報流出させやがったな。そして私は今仕事中です。

 ――“時間”は大切だ。もしジムで話した次の日に何かしらあったら仲良くなっていたかもしれない。だが、「かつて10分だけ話した人との音信不通の2年間」という時間は、あまりに長すぎる。

 小説『マチネの終わりに』も、時間がとても重要になってくる。タイミングや時間が合わずに上手くいかないことも、反対に時間が経ったからわかることもある。大人の恋愛小説だ。ピースの又吉さんやオードリーの若林さんも絶賛しているので、そちらの紹介の方が万倍わかりやすいと思う。

 あの電話が壮大な嫌がらせではないことを切に願う。モテエピソードにどうしてもしたいのだ。

 

『マチネの終わりに』平野啓一郎/著

第1~3回はこちら↓

『ニシノユキヒコの恋と冒険』(第3回 スタバで恋は生まれるのか) - 三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

『雨があがるようにしずかに死んでゆこう』(第2回 スタバで恋は生まれるのか) - 三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(第1回 スタバで恋は生まれるのか) - 三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界


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