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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『ニシノユキヒコの恋と冒険』(第3回 スタバで恋は生まれるのか)

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 スタバにいるときの「話しかけてくるなオーラ」がすごいらしい。

 一度、他部署に行ったら、先輩に「昨日スタバにいたでしょ。俺も20分くらい居たけどあんなに集中されたら話しかけられんわ」と笑われたことがある。そもそも気がつなかったし、私としては読書に集中しているだけなのだが、かなり近寄りがたいらしい。だからあの日、ショートカットの女の子に話しかけられたのには驚いた。

「こんにちは」 

 と言われ、見上げた女の子はおずおずしていた。どうやら店を出るところのようだ。小説に夢中で気づかなかったが、2、3度声をかけてくれていたらしい。ひとつ問題があるとすれば、その女の子に全く見覚えがないことだ。が、それはすぐに解消した。

「お久しぶりです。あたし『ビートル』のスタッフです」

 それは、私が2年前まで週2で行っていたジムだった。修行僧のように筋トレに励み、筋繊維をブチブチにしていたときのトレーナーさんだ。ジムでは化粧っ気のない女の子の激変ぶりに気がつかなかったのだ。

 その日は何も考えずに話して帰ったが、1週間後にまたスタバで話しかけられた。「もう2年もジムに行ってないんだけどな」と思った時に自分のバカさ加減に気づく。

 ほとんど話したこともない、近寄ってくるなオーラ全開の男にわざわざ話しかけてくる女の子などいない。ましてや彼女はジムの時はかなりクールだった。笑顔で媚びへつらうタイプではない。だが今はどうだ。とびっきりの笑顔じゃないか。

 ごめんよ、気が付かなくて。スーツ姿の私に、女の子が明らかに探りを入れる感じで聞いてくる。

「お仕事帰りなんですか? まだ図書館にお勤めですか? 明日もお仕事ですか?」

 質問が3つもきたぜ。これはキテるぜ。

「明日も仕事ですよ」

「そうですか。よかった。何時ごろ職場にいますか? 図書館のカウンターの時間はありますか?」

 まず「よかった」ってなんだ。そしてなぜ私のカウンターの時間を気にする? 決まっている。明日この子図書館に来る気だ。わっしょい。

 後ろから女の子を呼ぶ声がした。友達と何人かで来ていたのに、わざわざ声をかけてくれたようだ。これはいよいよだ。

 女の子は、後ろを振り返りながら「でも、まだちょっとこの人と……」みたいな雰囲気を出し、私に「ごめんなさい、また今度」と言った。

「また話しましょう」

 私がすげーいい顔でそういうと、彼女は控えめに手を振って帰っていった。手首だけ動かすアレだ。ジムトレーナーとお客さんから、いい感じの男女に変わった瞬間だった。

 ――だが結論から言えば、翌日女の子は図書館に来なかったし、彼女に会うことはそれっきりなかった。思わせぶりが過ぎるぜ。

 しかし女の子の質問には重大な意味が隠されていたようだ。その日の女の子との会話が、翌日新たな女の子との出会いと、悲劇をもたらすことになる。第4回につづく(明日更新します)。

 おわりに。「思わせぶり」と言えば、小説『ニシノユキヒコの恋と冒険』の主人公です。とにかく女性に優しい稀代のモテ男なのに、なぜだか必ず相手から別れを告げられてしまいます。女性視点で描かれているので、嫌味なく楽しめます。

 

『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美/著 2014年 映画化

 第1回、第2回はこちら↓

shikataeunita.hatenablog.com

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