三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『ノルウェイの森』〜手っ取り早くモテる方法〜

 友人に1人、美しい顔を持つ男がいた。大学生になって間もないころ、その男と2人で行動していた私は、女の子達から「美形の隣の人」という、漠然としている割に的確すぎる呼び方をされていた。

 だがその男はとても陽気ないい奴で、いつも皆を笑わせていたので、自然と私も女の子と打ち解けることができた。呼び方も「(隣の)たかしくん」に変わった。彼には感謝している。

 しかし1つだけ、彼にはどうしても困ったクセがあった。私にだけ謎の“かくしごと”をするのだ。

 『ノルウェイの森』の永沢さんと主人公の関係みたく、かっこいい男の隣に常にいると、普通の人間も魅力的に見えることがあるらしい。私は25%増しに映り、ほんのちょっぴり密かにモテかけていたらしいのだ。でも男は何故かそれを私に“かくす”。当然、恋愛偏差値4の私は気づかない。そりゃそうだ。美しい男の隣にただいるだけなのだから。

 美しい顔が言う「〇〇ちゃんが昔たかしのこと好きだったみたいなんだけど、もうよくなったってさ」。あるいは「△△ちゃん4ヶ月前までたかしに気があったらしいよ、もう違うけどね」と。

 私は思った。なぜリアルタイムで教えてくれない。そしてなんか俺がフラれたみたいになってやしないか?

【女の子→♡→私】がどこかで【女の子→?→私】に変わり、遂には【女の子→興味なし→私】となる。

 恐ろしいのは、ベクトルが常に一方通行だということだ。そこに私からのベクトルがないから挽回の余地がない。気づいたときにはもう遅い。もしリアルタイムで聞いていたら【女の子→♡←私】だったのに。

 なぜだ、なぜ勝手にフラれた後にそれを教える。クセの“クセ”がひどい。

 ーー先日、数年ぶりに美しい男と会った。

 滔々と語る彼に相づちをうちながら、頭の中はあの疑問でいっぱいだ。だがどうしても聞けない。問い詰めるには、男の目はあまりに澄んでいる。

 夢を熱く語る男の話を遮って、「どーして言ってくれなかったのよ」と7年も前の事を聞くなんて、本当にモテない奴みたいじゃないか。

 

ノルウェイの森村上春樹/著   2010年映画化。