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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『種まく人』~“気持ち悪い”のボーダーライン~

読書男子 恋愛 モテる

「十中八九そうだと思うよ」と私が答えると、女の子が急に笑い出した。

「前から思ってたんだけど、話し言葉で『十中八九』って使う人たかしさんしかいないよ」という。そうなのか。

 また暫くのち、別の女の子から質問されたので、

「いや、先端に触れたくらいだわ」と答えると、センタンニフレルって何? とぽかんとされた。え、「先端に触れる」も駄目なの?

 私はかつて、ある高名な胡散臭いおっさんと出会ってからコムツカシイ言葉を使うことをやめた。「蓋然性が高い」は「より確実かなー」に、「恣意的すぎんだろ」は「好き勝手に解釈しすぎだろ」にちゃんと変えている。カタカナ言葉などもってのほかだ。「エポックメイキング」だって「マジ画期的」に言い換えているのだ。だってあのおっさんのおかげで気取って難しい言葉を使う奴気持ち悪いと気づいたから。でも「先端に触れる」はセーフでしょうに。私は亜門さんに電話した。

「アウトだな」亜門さんは言った。

「アウトだよ。『先端に触れる』はギリギリアウトだ。んで『琴線に触れる』もアウトだよ。急に言われて脳内で漢字を思い浮かばせてしまう時点でアウトだ」

「『琴線に触れる』もですか? でも、」

「わかってる。お前が『言葉を正確に伝えたい』という信念を曲げてまで、女の子にモテたいというよこしまな気持ちから『ちょっと――お前的には大分――違うけど似ている言葉』に断腸の思いで言い換えているのはわかってる。そう、女の子にモテるために。でもな、お前このあいだ普通に『ダイバーシティインクルージョン』って言葉使ってたぞ。そんな男に気持ち悪い言葉のボーダーラインがわかると思うか?」

 ……オワタ。この言葉がまだ使われているのかわからないけどオワタ。あれだけ女の子に気持ち悪がられないためにコムツカシイ言葉を使わないようにしていたのに。無意識に使っている言葉が気持ち悪かったなんて。「ダイバーシティインクルージョン」はダメだ。誰がどう見ても駄目だ。

 亜門さんの「まぁお前がそれだけ本を読んでいることも、気取って使っているわけじゃないことも俺は知ってるけどな」という超絶イケメンフォローでさえ今の私には通じない。無意識を“意識”することなどできないのだから。――だが、出来ないからといって諦めてはいけないこともある。

 決めた。もう2度と気持ち悪い言葉は使わない。

 私は暗澹とした思いや忸怩たる気持ちを一掃し、希望的観測を抱きながら、喧々囂々ではなく侃侃諤諤としようと誓うのだった。

『種まく人』を読んでいたら、何故だかそのことを思い出した。農園開拓の話なんだけどな。

 今回のブログこそが“気持ち悪い”のボーダーラインを超えた気がして、ビクビクしながら筆を置く。

 

『種まく人―ヴィラデスト物語―』玉村豊男/著

ある非常に胡散臭い有名おっさんとの出会い↓

shikataeunita.hatenablog.com


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