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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『マリアビートル』〜悪い噂ばかりじゃなく、いい噂(ニュース)も本人に伝わる世の中でありたい〜

 その男はおそらく東京に住んでいて、30歳前後の独身だ。ちょっと真面目なロマンチストで、とにかく女の子にモテたがっている。私が買った中古の4WDの前の持ち主はそんな男だ。思考回路が似ているからよく分かる。そしてその男の渾身の小ボケに、私はまんまと引っかかることになる。

 当時住んでいた街は、異常な程車にこだわる土地だった。4WD至上主義だ。パープルピンクの軽自動車に載っていた私は肩身がせまい。正直車なんて興味はなかったが、口を開けば「何乗ってんのー、何乗ってんのー」と聞かれるのに嫌気がさした。私と同じでたまたまその街に越してきた古い友人が「たかしの軽はゼンマイで動いてるんだっけ」と4WDを買って言ってきた時に決心した。逆に波に乗ってやろうと。

 そして中古のガラスルーフの4WDを買った。以前は東京を走っていたらしいそれを。

 お披露目会には5人参加した。車に乗れるマックスの人数だ。みんな私のガラスルーフに興味津々。私自身、まだガラスルーフモードにはしたことがなかったので、しばらく走って(焦らして)から、ガラスルーフをオンにしようという話になった。

 1時間ドライブをして、だだっ広い公園に着いた時には皆もう我慢の限界だった。満を辞してガラスルーフモードをオンにする。ゆっくりと天井から空が覗く。

 運転席から後部座席にまで渡る天井一面のガラスに指で書いてあったのはこんな文字だった。

「うんこ」

 消しとけや。納品前に。

 だが、この小ボケをした男はきっと気にしている。それが成功したのかどうかを。そういう小ボケは私も好きだから、企みが成功したことを教えてあげたい。

 男はおそらくまだ東京に住んでいる。彼とはきっと仲良くなれるだろう。東京に行ったら彼の新車に乗るつもりだ。そしてすっかり打ち解けたあとに、普段女の子が乗っているだろう助手席の鏡付サンバイザーに挟んでおくのだ。ロリ巨乳のアニメキャラカードを。化粧なおしの時にでもバレてしまえばいい。あいつ、絶対に許さねぇぞ。

 そうそう、許せないと言えば小説『マリアビートル』に出てくる「王子」と呼ばれる少年です。列車が舞台のクライムアクション(でもポップ)です。ストーリーは文句なしに面白いです、王子がむかつくだけで。

 

『マリアビートル』伊坂幸太郎/著


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