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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『ハーメルンの笛吹き男』~もらいシャボン~

読書男子 公園 子ども

 ある晴れた日曜日。私はほとほと困り果てていた。公園に連れて行ったちびたちがあるものに夢中で帰ろうとしないのだ。公園に着いてかれこれ2時間半になる。4歳と2歳のちびたちは、見知らぬ女の子(10歳くらい)が吹くシャボン玉の虜だった。

 女の子から数メートル離れたところで、風に流されるシャボン玉を追いかけながらこっそりと「もらいシャボン」をしている。人が吹くシャボン玉でしれっと遊んでいる。

 傍目にはたしかに可愛い。見知らぬ子どもたちが私の吹くシャボン玉に興味を持つこともあるので、もらいシャボンは暗黙の了解として受け入れられてもいる。しかし時間が長すぎる。どれだけもらいシャボンをすれば気が済むのか。子供たちが何人も群がっているではないか。

 再三にわたる声掛けを全て無視し、ちびたちは遊び続ける。すると、もらいシャボンをしていた別の男の子が母親に声をかけられた。「そろそろ帰るよ」と。

 シャボン玉を吹いていた女の子も反応し、帰るため駐車場に移動し始める。しめた、声をかけたのは女の子の母親でもあったのか。

 女の子はシャボン玉を吹きながら進む。だだっ広い公園は、駐車場まで300メートルくらいある。女の子の「移動シャボン」につられて、ちびたちも歩き出す。名も知らぬ女の子よ、どうもありがとう。

 女の子を先頭に、ちびたち、女の子の弟、そして女の子の母親が続く。あんなに「帰りたくない」を連呼していたちびたちが取り憑かれたようについていく。それは『ハーメルンの笛吹き男』を連想させるなんとも不思議な光景だった。

 途中いくらか脱線をしながら(シャボン玉が楽しすぎて移動が遅かったようだ)、10分近くかけ駐車場に着く。女の子は私に“めくばせ”し、10メートルほど後ろを歩いていた母親の方に駆け出していく。「ありがとうね」と言うと、少しはにかんだ。母親にも、どうもありがとうございました、と目礼する。母親も微笑み返してくれた。なんと素敵な親子なのだろう。

 女の子は母親の方に駆け寄っていき、しかし何故かそのまま素通りした。そして公園の中心部に駆けていく。母親が「ありがとねー」と声だけで追いかける。そこで私は全てを理解した。この母親と男の子も、もらいシャボンで駐車場まで移動していたのだと。

 女の子は母親に声をかけられて駐車場に向かっているのではなかった。なかなか帰りたがらない見ず知らずのちびっこの為に案内役を買って出てくれた、ただただ心根の優しい女の子だったのだ。

ハーメルンのしゃぼんだま少女」は、スキップをしながら駆けていく。シャボン玉を吹きながら。おそらくは本当のお母さんのもとへ。

 ーー「あれ、この大して読者もいない非モテブログを書いてる人って実は結婚してたの? しかも子供を大事にしているわ」となれば、私がモテることは間違いなしだ。本当は久しぶりに甥っ子と遊んだだけなのに。物は言いよう。故におそろしい。

 

ハーメルンの笛吹き男』ドイツの町ハーメルンで、1284年6月に起きたとされる出来事の伝承。


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