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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

【おすすめ映画③】12月25日の朝。

映画 音楽 ジャズ クリスマス

 朝目覚めると、熱は大分引いていた。前日はクリスマスイブだったというのに38度の高熱で寝込んでいたのだ。もう何年も前の話になる。

 12月25日の朝。僕は卒論をするためにいつもの学食(の踊り場みたいなところ)へ向かった。よく友人と3人で勉強をしていて、僕は8時に、もう1人は10時に、そしてMは夕方の4時に来ていた。もっとも、Mが来るころには僕らは勉強を終えており、彼が来た瞬間、3人でタリーズに行くのが日課だった。

 しかしそこはクリスマス。学生たちは昨晩の会話でもちきりだ。「リア充」という言葉はまだ浸透していなかったが、僕はリア充に殺されそうになっていた。なんたって僕は昨晩、熱を出して1人で寝込んでいたのだから。一応、名誉のために言っておくが、昼ごろ友人が何人か見舞いには来てくれていた。10分くらいだけど。「寝込んでいた」という、せめてもの免罪符を握りしめながら、1人で過ごしたイブの切なさから身を守るしかなかった。

 夕方4時になりMがやってくる。そういえば僕はMと相当仲がいいが、彼はイブになにをしていたのだろうか。

僕「おつかれ。昨日はどっかのパーティに参加したの?」

M「いや、してないよ」

僕「えっ、何してたの?」

M「何って、夜中に間接照明のなかバスローブを着て南仏のブルゴーニュ地方の世界遺産を見ながらワインを飲んでいたよ」

僕「1人で?」

M「1人で。そして朝まで」

 僕は1人のイブを恥ずかしいと思った己の小ささに打ちのめされ、同時にMの偉大さに気が付いた。つまり「こいつは大きい男だ」と。

 でも大学を卒業してMとは疎遠になる。彼は東京で高級な服を作る職人になり、素敵な女の子とキャッキャウフフしていると聞いたが、だんだん連絡も途絶えていった。東京は人を変えてしまうと聞く。それを「さびしい」と思う僕の感情は、東京に住む人間からすれば、田舎者の戯言でしかないのだろう。

 だが昨日の夜、久しぶりにMから連絡があった。

「ブログ観てるよ。クリスマスのブログは俺のワインの話書いたら?」

「いいのかい? 本当にいいのかい? 多分ちょっとディスるよ?」

「いいよ。だってクリスマスに1人で過ごして何が悪いのさ」

 ――東京に行って変わってしまったのだと思っていた。昔はよく缶蹴りをしたけれど、今のMには缶はただのゴミにしか見えないのだろうと。仕方ない、それが東京の街に住むということだからと。でも違った。雨に濡れたたんぽぽにそっと傘をさしてあげていたあの頃のMのままだった。

 歳を取ると選択肢が減って、おのずと手放しちゃいけないものが見えてくる。Mにも今、手のなかにあるものを大切にしてほしい。そこに僕が含まれていたら嬉しく思う。俺もMにもらった柏木由紀のポスター大事にするからよ。実家の押入れの奥底に眠っているから。もう二度と目覚めることはないと思うけど。

 今日はクリスマスなので、ブログタイトルはMの好きなジャズシンガーakikoのアルバムから「12月25日の朝。」にする。劇中では流れていないようだが、なぜか『ラブ・アクチュアリー』を観るとこの曲を思い出す。

ラブ・アクチュアリー』はクリスマスにこそ観る映画だ。逆にクリスマス以外にいつ観るの。というくらいクリスマスの映画だ。ただ、付き合う直前のカップルは避けたほうがいい。ほんのちょっぴり、気まずくなるシーンがある。

 

「12月25日の朝。」akiko アルバム『Best 2005~2010』より。『ラブ・アクチュアリー』2003年、英米合作ロマンティック・コメディ映画。


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