読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『自分をいかして生きる』

読書男子

 花を一輪、女性に贈った。確か赤のガーベラだったと思う。花言葉は「チャレンジ」。これから退院する彼女は一人暮らしに挑戦しなければならない。応援の意味も込めて選んだが、ガーベラは花言葉が沢山あるし、花言葉を調べられても邪推――と言ったら失礼だが困惑はしないだろうと踏んだのだ。彼女には愛した人がいたから。それに、僕と彼女はガーベラがとても好きだった。

 花を渡そうと思ったのは思い付きだった。前日に川べりを歩いていたら、足元にかわいらしい花が咲いていた。僕はしゃがみこみ、ある言葉を思い出す。

 ――咲いている花を見て、ああきれいだな……といつの間にかそばに近よって、花に向けて手が伸びる。この手はいったいなんだろう――

 それを何で読んだのか(あるいは観たのか)は忘れたが、僕は唐突に「明日、花を持って行こう」と決めたというわけだ。彼女が退院する30分前に病院へ行き、受付のお姉さんに「彼女が退院する際にこの花を渡してほしい」と頼んだ。直接渡してもよかったのだが、九州男児として、今でも忘れられない男がいる女性に直接渡すことはできなかった。受付の人には名前すら告げなかった。

 4日後、友人のしおりさんから電話がかかってきた。退院した女性の家に遊びに行くから一緒に行かないか、という。どうしてもたかしに来てほしい、という。しおりさんと女性は友人関係だ。僕は仕方なく行く事にした。病院には守秘義務がある。僕が贈ったことはバレないだろう。

 家に着くと、女性は微笑み「来てくれてありがとう」と言った。部屋には僕のあげたガーベラが飾ってあり、今度は別の意味を込めて、僕だけに「ありがとう」と言った。

 気づいてたんですか、と聞くと、そりゃあね、と笑う。親戚でもない若い男の子から花を一輪贈られたら看護師はキャーキャー言うに決まっているじゃない。だって私82歳よ。しかも花言葉が「燃える神秘の愛」となったら、看護師は発狂ものよ、と笑う。

「分かってるわ。死んだ旦那のことを知っていたんでしょう。あの人、ガーベラが好きだったから」

 一人暮らしの応援(チャレンジ)という僕の意図とは違ったが、それでいいと思った。こっちの方が随分とロマンチックだから。

 女性は僕ら2人が来てくれたことを大変喜び、ピザを4箱頼んだ。女性は2枚、しおりさんも数枚しか食べなかった。おかげで僕はその日だけで3キロ太った。感謝の数値化ってできるんだな。素敵な3キロだ。と思った。 

 引用した本は『自分をいかして生きる』という哲学書だ。物事の原理・原則を解き明かす「哲学」ではなく、人としての生き方を問う類の哲学書。でも、自分をいかして働く、という「働く人全てに向けた本」だから、一度は絶対に読んだ方がいい。と思う。

ーーいやぁ、出ちゃうよなー。いい話でちゃうよなー。どんなに隠そうとしてもにじみ出ちゃうんだよなぁ、ナチュラルボーン・ジェントルネス。同じ病院に入院してたからといって花とか贈るかよ! 創作かよって思いますよねぇ。でもあるんだよなぁ。ナチュラルボーン・イケメン。

 ……調子に乗りました。あんまりふざけると皆さんからの怒りの拳が3キロの重みとなって顎を直撃し脳天を揺らしそうなのでここまでにします。

 

『自分をいかして生きる』西村佳哲/著


本・書籍ランキングへ


にほんブログ村