三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『とべバッタ』〜パンツが見たい〜

 こんな話がある。

 くさむらに、一匹のバッタがいた。まわりにはカマキリや蜘蛛、カエルなどが沢山いて、バッタは食べられないようにいつもこそこそ暮らしていた。でもある日、そんな自分がいやになった。バッタは大きな岩の上によじ登り、大胆にも日向ぼっこをした。そんなことをすると、天敵たちに食べられてしまうのはわかっていた。でもそうした。

 めざといカマキリが襲ってきた。バッタは踏ん張り、生まれて初めて、その強靭な後ろ足でめいいっぱいジャンプした。バッタはカマキリを蹴飛ばし、蜘蛛を蹴散らし、天高く飛び跳ねた。爽快だった。しかし、だんだん、落下していく。そのときバッタは気づいた。「どうやら自分の背中には羽が生えているらしい」。ぎこちなく羽をバタつかせてみる。とんぼや蝶々は笑った。なんて変な飛びかたなのかしら、と笑った。でも、バッタはまったく気にならなかった。生まれて初めて、自分の力で飛べたから。

 僕はこの絵本を読んでいたく感動した。ちょうどその頃、バッタのような心境だったのだ。僕はこそこそと過ごしていたし、なにより、自分で勝手にこしらえた“自制心”が色んな場面で邪魔をしていた。バッタのように強くなりたい。そう思った。

 読み終わった次の日は看護学校のアルバイトだった。生徒は、ほとんど全員が女子だ。彼女たちはこちらの視線などお構いなしにくつろぎ、常にパンツが見えそうだった。でも、鉄の自制心が邪魔をして、いつも目をそらしてしまう。それがとてももどかしかった。強くなりたい。自制心くらいぶっ飛ばせるように。そう思った。

 とても力強いタッチの絵本だし、間違いなく奮い立つので、元司書としてはぜひ、お子さんに読んであげてほしい、と思うが、こうも思う。

 絵本が子どもだけのものって誰が決めたの? 

 つまるところ、この本が真に響くのは、実は大人になってからなのだった。結局パンツを見ることなくアルバイトはやめたのだけれど(鉄の自制心が最後までもってしまった)、それでいいのだと思う。ちゃんと「見なかった」と書くことで、僕の好感度が上がるかもしれない。

 その後も色々なことがあって、僕は一時期、本当にバッタのような境遇に陥ってしまった。一歩踏み出すのが恐ろしかった。天敵に食べられてしまう。それに、この世の中を生きるには、草むらでこそこそ暮らしている方が上手くいくことを、大人なら知っている。でも、本当にそれでいいのか?

 2年後、僕はこの絵本を胸に、くさむらから飛び出しボコボコにされた。

 後悔は全くない。

 

『とべバッタ』田島 征三/さく