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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(第1回 スタバで恋は生まれるのか)

 スタバという、いわゆるモテ男女が好む場所に行ってみた。私は生粋のタリーズ派なのだが、引っ越した家のすぐ近くにスタバがあったのだ。しかし私はカフェインが割と苦手。大量に摂取すると夜眠れなくなる。

 初めてお店に行ったときカウンターにいたのはボーイッシュな女の子だった。木村カエラみたいな髪型とは裏腹に、化粧気はなく、それが逆に女の子の器量の良さを引き立たせていた。

 私は、カフェインが少な目なものを聞き、ココアとミネラルウォーターを頼んだ(ミネラルウォーターは『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』という小説でその存在を知った)。そして店内で、同作の続きを読み始めた。

 翌週もスタバに行ってみた。初回と同じくボーイッシュな女の子(以下 ボイ子)だった。彼女は「今日もココアにしますか?」と笑顔で聞いてきて、私は「はい」と答えた。クールな見た目ではあるが愛想がいいのだろう。私はまた1時間、小説を読んだ。

 3回目。またしてもボイ子だった。私が、ココアを、を口を開くより一瞬はやく、彼女が「あの、」と言葉を発した。

「カフェインが少ないのがいいんでしたよね、よかったらこれ差し上げます」

 ボイ子は一枚のメモを渡してくれた。ちょうどはがきサイズのメモだ。そこには彼女の字でスタバのカフェインメニューが丁寧に書いてあった。「個人の意見です」という吹き出しと共に、女の子特有のかわいらしい字で丁寧に書いてあった。それも詳しく。カスタマイズやおすすめまであったのだ。そしてそこで、私はそれから何年も飲み続けることになるディカフェ(コーヒーからカフェインを抜いたもの)と出会ったのだ。

 明らかにボイ子が自分用にメモしたものではなかった。それはお客(私)に向けて書かれたものだった。私は勝手にボイ子と呼んでいたことを深く反省した。

 翌週、私はまたスタバに行くことにした。せっかくだから今日は違うものを頼もう、と彼女からもらったメモを手に取る。先週は彼女からの突然のラブレターに喜んで気づかなかったが、よく見ると、

 そのメモは、手書きでなくコピーされたものだった。

 しかも、はがきサイズのメモ紙に切れ目がある。仕事柄、A4用紙を手にすることが多いのだが、このメモを4つ繋げるとちょうどA4サイズになる。この手書き風メモは「量産型」だ。1枚の用紙から、このメモが4枚できるという寸法さ。

 きっと、スタバには「カフェイン少な目ってありますか」と、あたかもひ弱な羊の皮を被り、店員さんを狙う狼が多いのだろう。彼女たちはその牙から身を守るため、はがきサイズの“盾”をスタバより支給されているに違いない。もう“彼女”ではない。やはり「ボイ子」だ。

 スタバの店員さんの愛想は計り知れない。そのやさしさが、時に人を傷つけることもある。

 ひとまずA4からカットされたメモを片手に、ボイ子に心を弄ばれたかもしれない3人の兄弟たちのことを想う。

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年村上春樹/著


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