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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『人のセックスを笑うな』

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 セクハラが嫌いだ。犯罪のなかで最も嫌悪していると言っても過言ではない。理由は(誰も俺のセクハラ論など知りたくないだろうから)書かないが、私は働くうえで常にセクハラしないよう意識している。女性から触られるのは良しとしている、念のため。

 その前提があるので、基本的に働くときは神経を使う。よほど仲の良い同僚としかキャッキャウフフできない。一度、ものすごく仲の良い女性社員にピンチを救ってもらったとき、嬉しさのあまり「Mさん助かりました!愛してます!」と言ったら、Mさんがマンガみたいに腰を抜かした。その時に、二度とセクハラはしない、と誓った。相当のピンチだったからといって、あれはだめだ。

 それからというもの、私はセクハラを異常なまでに気をつけた。女性からのボディタッチは可とした。

 だからあの朝、殆んど話したこともない米田さん(仮)が急に話しかけてきたときはとても驚いた。3ヶ月近く一緒に働いていたが、勤務時間も重ならず、おそろしく静かな女性だったから、「おはようございます」「お昼ですよ」「帰る時間ですよ」位しか話した記憶がない。米田さんから話しかけられたことはなかった。

 朝の8時37分。事務所には私と男性上司と米田さんしかいなかった。3人とも黙々と仕事をするタイプで、事務所は心地よい静けさに包まれていた。そして彼女が口をひらく。

 そういえば、と不明瞭な声がした。米田さんがこっちを見ていた。

「そういえばたかしさんはホテルに泊まったりするんですか?」

 唐突だなと思ったが、彼女から初めて話しかけられたのが少し嬉しくもあり、答えた。

「ホテルですか。最近はあまり旅行も行ってないですからね」

「いえ、そっちのホテルではなくて……たかしさんてどんなセックスをするのかなと思って」

 米田さんはすげーいい顔でそう言った。

 

 今でも時々考える。あのとき私は何と答えるべきだったのだろうか。

 もしかしたら、「いや、僕は基本的に野外なので」という渾身の小ボケを言えたかもしれない。だが、その日の私には無理だった。バカみたいに口をあんぐりあけていた。男性上司は絶句していた。

 そのあと、「だってすごく気になるんだもん」という笑顔の追い打ちを受け、私は午後から早退した。

 後日談は書かない。割と笑えないからね。でもなぁ、だからこそ思うんだよ。あんなにいい顔でセックスの仕方を聞いてきた彼女に、僕はなんて返せばよかったのかな。誰か答えを教えておくれ。

 

人のセックスを笑うな山崎ナオコーラ/著 2008年 映画化


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