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三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

モテるためには、全てを武器にせよ

 バーで外国人に口説かれたとき、正直「またか」と思った。

 カタコト会話のあと、ぼそっと何かを言われた。周りが騒がしかったので顔を近づけると、耳元で「一緒に、裸で」と言われたのだ。

 英国陸軍少尉に「あなたはとても美しい」とささやかれたこともある。もちろん壁ドンののちに、だ。外国人は積極的で、ストレートに体を求めてくる。

 いや、森君に初めて唇を奪われた時も突然だったか。僕は小学一年生だった。何度か「やめて」と言ったのだけれど、何度も奪われたな。思えばあの頃から、同性に好かれ始めたのだと思う。

 小・中・高、と噂は尽きなかった、らしい。「らしい」というのは、僕にその自覚がなかったからだ。学年で一番背が低く、精神的にも幼かった。

 先輩に組み敷かれてキスマークを付けられたことも(抵抗しても無駄だった)、アルバイト中にお客様から「下半身をもてあそばせて」とお願いされたことも、ただの冗談だと思っていた。

 大学卒業後、たまたま僕の写真を見た女性が「この人よくBLに出てるよ」と言ったと聞き、ようやく、「そういうことか」と理解した。

 もちろんBLに僕は登場しないし、今までの出来事が全て本気だったとも思わない。が、つまりはそういうことなのだろうと。

 勘違いしないで欲しいのは、僕はそのことについて何も思っていないということだ。仮に先輩がゲイだろうがそれは個人の性質だし、先入観以前に大して関心もない。たまたま僕が今まで異性にしか興味がなかっただけ、と強引に言い切ってもいい。

 一般的に、好意を持たれるのはありがたいと言われている。知らない世界を知ることは大切だし、「何事も挑戦」という言葉もある。ここまで関心を持ってもらえるのだから、一度くらい受け入れてもいいかもしれない。

それに、どうでもよくなる夜だってたまにはあるのだ。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・ 

 とある冬の夜、ホテルの一室で、ベッドに二人で腰かける。

 外は雨で、僕らは無言のまま一人分の間隔を空けて座り、ビールを飲む。

 ごくり、と液体が喉を通る音が合図となった。

 左からごつい手が伸びてくる。僕の頭をポンポンと優しく撫でる。

 ――うん。ごめんなさい、やっぱできません。

 今のところ、貞操は守り続けている。


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