三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

モテ男になろう

「モテ男」になるのは難しい。

 先日、女性に「これ開けて」と菓子袋を渡された。私はこっそり手汗を拭き、何とか袋をこじ開ける。冷や汗をかいた。

 あるいはこんなこともあった。

 私は致命的に方向オンチで、女の子を助手席に乗せるときそれを伝えている。彼女たちは「そんなこと気にしない」と言ってくれ、結果私は道に迷う。別段がっかりした顔はされない。が、明らかに私の評価は少し下がる。

 女の子には、男たるもの道に詳しく有るべし、という不文律がきっとあるのだ。 そして私はそのタブーを犯してしまったわけだ。

 このように、男女間は危険に満ちている。だから男は五体を鍛え、教養を磨き、オシャレに身を包むのだ。

 娯楽小説しか読まず、干物ボディの私は、普段絶対買わないような「からし色のカーディガン」に挑戦し、「どう?」と姉に聞いた。(そう、「姉」です。本当は気軽に女子に聞きたい。でも、それができたら既に彼女は出来ている!)

 ――姉に「割といいよ」と言ってもらった私は、街へ出た。 好きな服を着て、好きな喫茶店で、好きな本を読む。 周りを見渡し、「みんなわたしを見て」と愉しんだ。

 しかしそれも束の間、私は致命的なミスを犯していることに気が付いた。

 そうなのだ。

 自分の世界を愉しむ男はモテるが、モテたいと周りを見渡す男はモテない。

 同様に、

 自分の為におしゃれをする男はモテるが、モテる為におしゃれをするやつはモテない。なんという恋愛パラドックス

 途端に居心地が悪くなる。隣の女子のクスクス笑いも自分に向けられている気がするし、「何あのからし色のカーディガン(笑)」と言われているんじゃないかしら、と思ってしまう。

 ついに私は 「ぴょぎょおおおおお」 という謎の奇声とともにその場を逃げ出し、店を出た瞬間に二度目の「ぴょぎょおおおおお」を発した。

 目の前にずっと派手なからし色のシャツを着た男がいた。しかも隣にはおそろしく可愛い彼女が。 彼は自信に満ち溢れていた。

 恥ずかしくないの?ねぇ恥ずかしくないの?そして隣のかわいい彼女は誰!?

 ――私は悟った。モテる男は果てしなくタフなのだ。そして揺るがない。帰ろう。モテの世界では、負け犬は去るのみなのだ。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~*1

 家に帰り、母と短いやりとりをする。

「どこ行ってたの?」

「喫茶店」

「一人で?」

「一人で」

「あんたもさみしい男ね」

 ……母よ、今日のところは甘んじてその言葉を受け入れよう。しかし、明日からの私は一味違うぞ。

 私は布団に潜り、「今度はみどりのマフラーを買おう」と固く誓うのだった。

*1:ここに脚注を書きます