三十路の図書委員、本棚から覗くモテ世界

30歳、独身、彼女なし。ややイケメン。この「やや」がやっかいだ。昨今、読書男子がモテるというけれど、クラスではドッチボールのうまい男子がモテていた。そんなこと小学生時代からわかってた。

『あのころ』〜ボタン狩り〜

 卒業式で、女の子に第二ボタンをねだられるのが夢だった。中学生の時は叶わなかったが、高校の卒業式であっけなくかなった。

 たかしくん第二ボタンちょうだい、とクラスメイトの女の子に言われたのだ。隣には付添みたいな女の子もいる。

 私は「べ、べつにいいけど」みたいな顔をしながらボタンをブチっと取り、女の子にあげた。

 すると、付添みたいな女の子が僕を見て、

「ねぇ、第1ボタンちょうだい」と言ってきた。私はまたしても「べつにいいけど」みたいな顔をしてーーそれがかっこいいと思っていたのだーー女の子にボタンをあげた。高校はブレザーだったので、ボタンは二つしかない。私はボタンのなくなった制服を見て大変に満足した。

 さてその後である。なんとその女の子2人組が、別の男にもボタンをねだり始めたのである。彼女たちは私のボタンが欲しかったわけではない。何故だか理由はわからないけれど、男の第二ボタンを収集する“第二ボタンハンター”だったのだ。

 その証拠に、彼女たちは私を含めて計3人の男達から第二ボタンを奪っていた。くそぅ。

 ややあって、意気消沈した私が教室を出ると、ある女の子がもじもじしていた。

 「あの、たかしくん。もじもじ。もしよかったら第二ボタンくれないかな、おずおず」

彼女は、高校二年生のときのバレンタインに、私にチョコをくれた女の子であった。

 その真剣な眼差しから、彼女が本気で私の第二ボタンを欲しがっていることがわかった。やっぴー。

 が、ときすでに遅し。私は2個しかないボタンを第二ボタンハンターに奪われた後であった。とんだバカタレである。

 さくらももこの『あのころ』を読んでいたら、ふとそんなことを思い出した。

 もしあのときボタンを渡せていたら‥‥‥、いや、当時のたかし少年には、第二ボタン狩りから逃れる術はなかったのだろうな。

 

『あのころ』さくらももこ/著

『よろず春夏冬中』〜デカフェ問題〜

 スタバによく通っていた頃、私は必ずディカフェ(コーヒーからカフェインを抜いたもの)をたのんでいた。

 あるとき、私がいつものようにディカフェを頼むと、アルバイトを始めたばかりの少年が「デカフェですね、かしこまりました」と言ってきた。デカフェ

 後日、スタバの黒エプロンの女の子と喫茶店で話しているときに、

「カフェイン抜いたやつって『ディカフェ』なの? それとも『デカフェ』なの?」と聞いてみた。

 黒エプロンの女の子は「普通の店ではデカフェだけど、スタバではディカフェで統一してるんだよ。今度、注意しなくっちゃ」といっていた。家に帰りスタバのメニューをみると、たしかにディカフェと書いてある。「デカフェ」ではなく「ディカフェ」である。

 昨日、本当に久しぶりに近所のスタバに行ってみた。早朝のレジには、まだ10代に見える男の店員(スタバで働いていることは好きだけど、スタバ自体にはさして興味がなさそうに見える少年)が一人だけいた。

私は「ディカフェをください」と彼にいう。

彼は「デカフェですね」と答える。

デカフェ?  と思いながらも、今のスタバはデカフェになったのかもしれない、という謎の可能性で自分を納得させる。 

 10分後、男の子がコーヒーを持ってきて(ディカフェは出来上がるまで10分ほどかかる)、

 「デカフェになります」

 と言ってきた。

 それはデカフェではないし、君がどんなに「デカフェになります」と宣言しても、君はデカフェにはなれないんだよ、と皮肉が頭をよぎったとき、何故だか私は自分がひどく歳をとったように感じた。

 数年前に、『よろず春夏冬中(あきないちゅう)』というという小説のことを、『よろずしゅんかしゅうとう』と読んでいる女の子に出会ったときは、かわいいと思ったのにな。

 そんなことを思いながら飲むディカフェは、なんだかあんまり美味しくなかった。私の心の中が不味かったからだろうと思う←上手い。

 

『よろず春夏冬中長野まゆみ/著

『ペイ・フォワード』〜アメリカンあるある早く言いたい〜

 アメリカンなセリフに憧れる。

 昔、女の子と『ペイ・フォワード』を観ていたときに、登場人物の男が女性の自殺を止めるシーンがあった。

「命を大切にしろよ」だとか、「残されたひとのことを考えろ」などが凡例だが、男は彼女に、

 「コーヒー、飲みに行きませんか」といった。  僕は、アメリカンだなぁ、と呟いた。

 それからというもの、アメリカンなセリフに私のアンテナが反応するようになった。

 「俺は吐いた唾は飲まねぇ、でもピーナッツバターが塗ってあったら別さ」とか、そういうものに。

 そして最近、それはエスカレートし、私自身がアメリカンなセリフを言いたくなってきた。

 でも、アメリカンなセリフはとても難しいのだ。

ーーある雨の日、窓際の席で、女の子と食事をとっていた。

「ねぇ」と女の子が話しかけてくる。

「ねぇ外を見て」

「ん?」と私

「ねぇ、どうしてあのひと傘をさしてないのかしら、こんな雨の中、手に傘を持っているのに」

「きっと前世が砂漠だったんだよ」

 私は心の中でだけそう呟く。

 でも言えない。どうしても、言えないーー。

 

ペイ・フォワード』映画